3. 少しだけ皮膚病理の得意な皮膚科医になるために

2013.02.08

過去の総会

田中 勝 先生
東京女子医大東医療センター皮膚科教授

はじめに

私は,自分を皮膚病理医と呼ぶのはおこがましいので,皮膚病理が好きな皮膚科医ぐらいだと思っています.皮膚病理医と呼ぶにはやはりそれなりの専門施設で高いレベルの研修を受ける必要があると思います.そこで,とりあえずあまり高すぎない目標として,少しだけ皮膚病理の得意な皮膚科医を目指してはいかがでしょうか?特別な努力ではなく,まずは小さな努力の積み重ねから始めませんか?

 

病理を好きになるきっかけ

研修医の頃,カンファレンスや学会に参加していると,単に質問するだけではなく,病理所見をみて自分の意見を言うことができる先生方がいて,強く感銘を受けました.こうした体験から,皮膚科診断学における病理診断の持つ意味合いが自分の中で少しずつ膨らみ,しだいに将来の目標となった気がします.皮膚病理を勉強して診断に強くなれば自分もひとりで診断を考えることができるようになるので,それが皮膚科医の理想的に姿であるようにも思えました.

 

皮膚病理を勉強し始めた頃

診断にはこだわりを持ったほうがよいと思います.上の先生から教わったことを鵜呑みにするのではなく,自分で納得の行くまで所見を確かめたり,本と比べたりすることはとても大切だと思います.正しい診断は1つしかないのですが,標本は多彩な断面を見せ,多様な時期的変化を伴いますので,常に典型像ではない標本から正しい診断にたどり着かなければなりません.

また,それぞれの分野の専門家に意見を聞くことは,とても勉強になります.研修医の頃,血管炎を専門とする病理の先生やリンパ腫を専門とする病理の先生のお部屋を何度も標本を持って訪ねたことが思い出されます.また,皮膚科の先輩の中に病理に詳しく特に毛包系腫瘍に詳しい先生や悪性腫瘍に詳しい先生がいたので,その先生がいる病院まで標本を持参して教わったり,その先生が慶応病院の特殊外来をするためにやってくるチャンスを逃さずに一緒にディスカッション用顕微鏡でみてもらったりしました.

 

どのような本を読むか

私は医局の先輩方に習ってLeverの教本(Histopathology of the Skin)(第6版)をまず買いました.研修医の給料(奨学金?)が月に25000円でしたが,当直のアルバイトをしていたので,30400円のこの本を何とか買えました.英語を読むことが当時はあまり得意ではなく,とても時間がかかりましたが,ついでに英語の勉強にもなるかな,と考えて辞書を頻繁に引きながら読んでいました.

少し後にMihmの教本(Primer of Dermatopathology)も買いましたが,この本は所見が箇条書きに書かれていたので,要点をつかみやすかったと思います.Primerを読んで,要点を理解してからLeverを読むとさらにわかりやすかったです.

今は日本語の皮膚病理の教科書がいくつか出ていますが,当時は欲しいと思える本がなかったようです(あったのかもしれませんが,現代のように検索が容易ではなく,みつからなかっただけかもしれません).

 

いつ勉強するか

「じゃあ,いつ勉強するか?今でしょう!」というのが流行って(?)いますが,やはりいますぐに勉強できる機会を逃さずに勉強するしかないと思います.

まずは,毎週のカンファレンスの前日です.フレマンの頃は自分がプレゼンする症例の勉強をするだけで手一杯だと思いますが,2年目になると少し余裕ができます.その余裕の時間で,後輩のフレマンが担当する症例を一緒に勉強します.つまり,最低限,翌日の供覧症例の疾患をLeverで読み,大まかな臨床像と病理の要点を把握するのです.そしてたまには少し欲張って,鑑別診断の疾患もついでに勉強すると知識が少しずつ増えていきます.

また,地方会に出て発表を聞くだけでもたいへん勉強になりましたが,そこにLeverを持ち込んで症例報告疾患のところを読みながら聞いていると,さらにすごく勉強になったと思います.ちょっと荷物にはなりますし,集中していると学会が終了する夕方にはへとへとに疲れますが,同時に満足感も得られたと思います.ぜひおすすめの方法です.机のある席を確保したほうが本を読みやすいので,会場へは少し早めに行きましょう!

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