10. FISH法は診断の難しいメラノサイト系腫瘍の補助診断として有用

2014.04.01

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高田 実(岡田整形外科・皮膚科)

 メラノサイト系腫瘍の病理診断は難しく、エキスパートの間でも良性と悪性の判断が分かれることが稀ならずあります。一方、最近の研究によりメラノーマと良性の母斑類の間には明瞭な遺伝子異常の差異があることが明らかになってきました。そこで、腫瘍組織の遺伝子解析を病理診断の補助診断法として導入する試みが数年前から盛んに行われるようになってきました。遺伝子解析には様々な方法がありますが、それが補助診断法として一般病院の病理検査室レベルに広く普及するためには、(1)ホルマリン固定パラフィン包埋組織を使用できること、(2)手技が簡単で再現性が優れていること、(3)低コストで短時間に検査ができることの少なくとも3つの条件を満たす必要があります。

 UCSFのBoris Bastianらのグループは多数例のメラノサイト系腫瘍のarray CGHのデータに基づき、6p25 (RREB), 6q23 (MYB), centromere 6, 11q13 (CCND1)の4種類のFISHプローブを選択しそれらをセットとしてコピー数異常を解析するとメラノーマと良性の母斑類を高い感受性(87%)と特異性(96%)で識別できることを示しました(Am J Surg Pathol, 2009;33:1146-56)。この4種類のFISHプローブはMelanoma FISH Probe KitとしてVysis社から発売され、上記の3つの条件を満たす比較的簡便な補助診断法として現在世界中で広く用いられつつあります。

 さらにごく最近、Bastianらはこのプローブセットを用いたFISH法が、病理所見のみでは診断の確定が難しい問題症例の診断にどの程度有用かを検証しています(Am J Surg Pathol, 2014; March 10, Epub ahead of print) 。対象はUCSFのDermatopathology Serviceで経験した804例のメラノサイト系腫瘍の診断困難例で、その内訳はSpizoid tumorが約半数、その他はメラノーマと足底や粘膜の母斑、Clark母斑、青色母斑/deep penetrating nevusなどとの鑑別が問題となった症例です。これらの症例では全例、通常の病理診断に加えて補助診断法としてFISH法が施行され、その成績を加味して最終的な診断がなされています。その結果、FISH法は88%の症例で良性、悪性の最終診断に寄与したとされています。FISH法でコピー数異常が認められなかった630例では78%が良性、14%がどちらとも言えず、8%が悪性と最終的に診断され、コピー数異常が認められた124例では94%がメラノーマと最終診断されています。このようにFISH法は診断困難例の補助診断法としても有用性が高く、特にこれが陽性であった場合はかなり自信を持ってメラノーマと診断できるようです。一方で著者らはFISH法の施行にはある程度の技術的習熟が必要であるとも述べています。特に標本のどの領域の細胞のFISHシグナルをカウントするかということが重要であり、これにより陽性、陰性の判断が異なることもあるとしています。

 形態学的診断はどうしても病理医の主観に左右されますが、このような遺伝子解析は客観的かつ定量的で再現性もあるので、適切に用いれば診断の難しいメラノサイト系腫瘍の補助診断法として極めて有用と考えられます。

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