4. 皮膚病理を学んで豊かな皮膚科医人生を!
2013.06.01
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高田 実 先生
岡田整形外科・皮膚科
私が皮膚病理を始めたのは卒後4年目のことで、ハーバード大学のミーム教授のもとに短期留学する機会を得たことがきっかけでした。実は、その頃は特に皮膚病理学に興味があった訳ではなく、何でもよいからとにかく海外に勉強に行ってみたかったというのが正直なところです。1982年のことですからもう随分昔ですが、当時、米国にはすでに皮膚病理医というサブスペシャリティーが確立されており、その資格を得るためのきちんとした研修プログラムもありました。国籍も背景も様々な同年代のレジデントたちと教育顕微鏡で同じ標本を覗き、色々な話をしながら皮膚病理診断学を勉強するのはなかなか楽しい体験でした。
このように軽い気持ちで入った皮膚病理の世界でしたが、教室に戻ってすぐに病理診断の係をやるようにとの教授のご下命があり、本格的に勉強せざるを得ないことになりました。以後、Lever や Ackerman の教本を手元に置いて、カルテを参照しながら病理標本と格闘する日々が始まりました。当時の金沢大学の教室のシステムは、1週間分の標本をまとめて私がまず病理診断を行い、それを教授がチェック、さらに問題例をピックアップして教室員全員で検討会を行うというものでした。卒後 4年目の未熟者にとっては当初かなりの重圧でしたが、程なく標本を診るのが楽しくなりました。以後 20年以上に亘って、珍しい症例が集まる大学病院という恵まれた環境で病理診断を通じて数多くの症例を経験できたことは皮膚科医として本当に大きな財産になりました。
一方で顕微鏡を覗きながら日頃感じた疑問や問題点を免疫組織化学や遺伝子解析などの新しい手法を用いて解明することにも興味を持ち始め、皮膚病理学を基盤とする研究にも少しずつ手を染めるようになりました。神経線維腫の組織発生(Am J Dermatopathol, 1994)、GVHDの組織障害機序(Am J Clin Pathol, 1995)、脂腺母斑に発生する2次腫瘍とBCCとの違い(J Invest Dermatol, 1999)、メラノーマの原発腫瘍におけるクローンの多様性の証明(Int J Cancer, 2000)、附属器腫瘍やメラノサイト系腫瘍の病理診断に役立つ遺伝子解析システムの開発(J Cutan Pathol, 2005; Br J Dermatol, 2007)、色素細胞母斑の組織発生(J Natl Cancer Inst, 2009)などなど、自分の興味の趣くままに行った研究が内外で多少の評価を得たことは望外の喜びでした。
今振り返ってみると、皮膚病理学は皮膚科医としての私の人生をとても豊かなものにしてくれたと思います。きっかけは何でも構いません。ひとりでも多くの皆さんが顕微鏡の向こうに広がる皮膚病理の素晴らしい世界に興味を持ってくれることを願っています。