7. 皮膚細胞診
2013.04.01
トピックス
横山繁生(大分大診断病理学)
トピックスと言うほどではありませんが,皮膚科医には馴染みの薄い皮膚細胞診をご紹介いたします。
細胞診は簡便,低侵襲,安価な診断法として,多くの臓器でその有用性が立証されていますが,皮膚領域では水疱性疾患に対するTzanck testと婦人科医が行う外陰部病変を除けばほとんど行われていないのが現状です。皮膚細胞診が一般化しない最大の理由は,他臓器に比べ生検が容易なため皮膚科医が細胞診を必要としていない点にありますが,加えて,過角化・痂皮形成のため擦過による細胞採取が困難,角化細胞や基底細胞様の小型細胞が出現する表皮・付属器腫瘍の鑑別が困難などの理由も挙がります。
皮膚科医から細胞診を依頼される事はほとんどありませんが,他科の医師から穿刺吸引(fine needle aspiration, FNA)された皮膚腫瘍の細胞診検体が提出される場合があります。その多くは,皮膚腫瘍をリンパ節病変,唾液腺腫瘍,乳腺腫瘍などと判断してFNAを行った症例になります。そのような症例では,依頼書に記載された採取臓器が誤っており,皮膚細胞診における細胞検査士・病理医の経験不足も手伝って,誤診が生じる可能性があります。誤診しやすい代表的な腫瘍が毛母腫で,例えば,頸部リンパ節病変として提出された標本中にbasophilic cellを認めた場合,細胞検査士・病理医は悪性(転移性癌)と誤判定する可能性があります。尋常性天疱瘡も細胞検査士・病理医には危険な疾患の一つになります。天疱瘡の棘融解細胞の多くは傍基底細胞(核小体を有するN/C比の高いやや小型の細胞)で,形態的には異型細胞として認識されます。口腔内病変のある腫瘍随伴性天疱瘡患者に喀痰細胞診が行われた場合,喀痰中に混入した棘融解細胞が悪性(肺癌)と判定される可能性があります。
このように,皮膚科医と関係ない所で皮膚細胞診が行われ,時々問題が生じている事を皮膚科医の皆様も認識しておいて下さい。また,個人的には,皮膚科医と細胞検査士・病理医が協力して皮膚細胞診の実用性と限界を検証する必要があると考えています。
ついでながら,稀に皮膚科医から細胞診の依頼もありますが,検体処理に不慣れなためか,乾燥した標本が多い印象があります。一般に,細胞診では95%エタノール固定・パパニコロウ(Pap)染色を行いますが,乾燥した細胞は1.5倍ほどに膨化し,Pap染色では核内構造が不明瞭になり,細胞診判定ができなくなります。素早く固定液に入れる事が重要で,特に暖房を使う冬期には注意が必要です。標本が乾燥した場合は,Pap染色よりも乾燥固定を行うギムザ染色/Diff-Quik染色を行う方が良いと言われています。
1) Koss,L.G., Melamed, M.R.: Koss’ diagnostic cytology, 5th ed.. Lippincott Williams & Wilkins, Philadelphia, 2006
2) 横山繁生,卜部省悟,蒲池綾子,駄阿勉,加島健司:第2部:細胞診の実際とトピックス 24.皮膚,病理と臨床,31(臨時増刊号),379-389,2013